≪農産物の原価計算≫  (2009.10.7)

第14回は、第9監査課 柴 秀行による 『農産物の原価計算』 をお届けします。

【農産物の原価はどうやって計算するか?】
◆原価計算とは、広義では、製品やサービスの原価を計算するための方法のことを言います。
目的や製造方法により、その計算方法は異なりますが、いずれにしても経営管理のために行うのが原価計算です。どんな商売であっても発生するのが原価。  
これをきちんと把握していなければ経営はしていけません。
今回は農業にスポットを当てて、原価計算を考えていきたいと思います。

◆農業は収穫までにとても時間がかかるため原価計算が難しそうに思えます。
しかし、生産に必要な資材や経費、労働時間を把握することで簡単に算出できるのです。
原価の内容としては
  材料費・・・種子種苗代、肥料代、農薬代
  労務費・・・作業する人の給料、法定福利費
  経費・・・地代、減価償却費、修繕費、動力光熱費  ...などです。
原価には種子代・肥料代・農薬代・労働費などの直接原価と、
減価償却費・農機具の修繕費・地代などの 間接原価があります。
この直接原価と間接原価を合わせたものが売上原価となります。                ◆          ◆          ◆
◆では具体的に夏大根栽培を例に計算して見ましょう。
(ゼロから始め、一反(約300坪)の畑と仮定して 計算してみます。)
夏大根は種まきから収穫まで約3ヶ月かかります。

●まず土地を借りる。
⇒地代5,000円(年間20,000円で3ヶ月換算)
●次に土作りとして、堆肥と元肥を撒き、耕運機で耕起(土を耕すこと)する。
⇒人件費4,800円(@800円×6時間)、堆肥代20,000円(市販のもの)、耕運機のレンタル代3,000円/日、肥料代20,000円
●播種(種をまくこと)する
⇒種代5,000円、人件費1,600円(@800円×2時間)
●雑草を取り、1回目の中耕(農作物の生育中に、その周囲の表土を浅く耕すこと)を行う。
また、追肥も行う。
⇒人件費9,600円(@800円×12時間)、肥料代10,000円
●間隔を置き、雑草とりと追肥を行う。
⇒人件費11,200円(@800円×14時間)、肥料代10,000円
●2回目の中耕を行う。
⇒人件費1,600円(@800円×2時間)
●収穫する。(畑から収穫し、洗浄・選別・箱詰め)
⇒人件費16,000円(@800円×20時間)、梱包資材25,340円
その他、法定福利費6,432円、軽トラックの減価償却費10,000円、収穫までに掛かる費用はここまで合わせて159,572円
               ◆          ◆          ◆
◆農水省発表の平成20年産夏野菜収穫量によると、夏大根の1反(10アール)当たりの収量は3,620kg。
大根一本当り1kgとして3,620本。原価は159,572円÷3,620本≒44.08円です。
これで、1本あたりの原価が算出できました。

◆このように、大根を栽培するのには意外と手間隙やコストが掛かります。
農業は機械化できる作業が限られるため、特に人件費が原価の多くを占めます。  
また、大根などの根菜類よりも葉菜類や果菜類の野菜は、茎や葉の剪定や間引きなど、 さらにこまめな手作業が必要です。

◆この後はいよいよ販売活動になりますが、また経費が発生します。
販売費や一般管理費です。 収穫した夏大根の販売方法は
(1)市場に出荷する
(2)自分で販売する
(3)小売業者に販売する、

などがあります。

(2)の自分で販売する場合は手数料が掛かりませんが、(1)の市場は野菜の規格があり、 収穫した野菜を全て販売することが難しく、また販売手数料が約8%掛かります。
(3)の小売業者の販売手数料は売値の約15%~25%です。
(3)の場合で1本100円の売値で原価と販売手数料を支払ったら1本当たりの利益は40.92円となります。 (100円-44.08円-15円=40.92円)
収穫した野菜をすべて完売したとして、40.92円×3,620本≒148,130円。
3ヶ月間で大根を作って純利益は148,130円となりました。
多いと思いますか?少ないと思いますか?

◆また、農業には天候、病気や害虫などのリスクがあり、掛けた経費が無になることもあります。
農水省発表の「農家の所得の動向」によると、販売農家の農業所得は年間120万円(平成19年)、 主業農家の農業所得は年間425万円(平成19年)となっており、年々減る傾向にあります。

◆日本の食料自給率は約40%と世界的に見ても低い国です。
この食料自給率についてはさまざまな意見がありますが、今私たちができることは農家の皆さんが手間隙かけて栽培した野菜を『感謝し、残さず食べること』だと思いませんか・・・。
(第9監査課 柴 秀行)

(次号予告:システム課 伊藤 美幸による 『活かすHP作りで集客・売上アップを図りましょう!』)